リレー小説・1

ガックンッ!

首が前に落ちてはっと目を覚ました。

その拍子にかけていた眼鏡が膝の上に落ちる。

「あ…寝ちゃったのか。」

そう言うと翔は眼鏡をかけ直し、椅子から立ち上がると、う~ん!と伸びをした。

不知火・翔はこの春、大学院に進学し、地球環境をテーマ(具体的にはこれから考えます)に研究を続ける大学院生だ。

研究熱心で、ほかの院生がグループでひとつの研究をしている中で、翔は一人で結果を出そうとしていた。

といっても、決して内向的な性格ではない。マイペースで研究をしたいというだけの為である。

ただ、マイペース過ぎて、今日みたいに寝すぎてしまうことも多々ある。

今日は昨日からレポートの作成の為、資料を整理していた。

資料を整理して、そのうちただの身の回りの整理になって、日ごろの疲れが祟って疲れて眠ってしまったという次第だ。


翔は外の空気を入れるべく、窓を開けて深呼吸をした。

すでに太陽は空高く、翔を照らしていた。時計を見ると午後3時。

今日はこれから家に帰ってレポートの下書きに取り組まねばならなかった。

「ちょっとその前に…」

大学院を出ると近くにあるカフェに足を向けた。

チリンチリン。ドアを開けると鈴が客の来店を知らせる。

「いらっしゃいませ、あ、こんにちわ」

すぐに女性の声がかかる。後半の挨拶はいつものことだ。

翔はこのカフェの常連客、もう向こうも覚えてくれている。

店内には先客がいた。アルバイト候補だろうか、オーナーと話しをしていた。

翔はいつもの、窓際の席に着くといつものメニューを注文した。


「あぁ…退屈だ。」

席に座ると翔は心の中で呟いた。

大学院に入学したての頃は、目の前の新しい事に無我夢中で取り組んでいったが、半月も経つとまた新しい刺激が欲しくなってきた。

「何かびっくりすることが起こらないかな。」

そう思いながらコーヒーを飲み干した。


自己紹介

●不知火 しらぬい・しょう

大学院1年生 環境学部・自然科学


173センチ・黒縁四角形眼鏡をかけて黒髪短髪。

服装は大体シャツに、下はGパン。夏はそのまま、冬はジャケットやコートを羽織っている。

性格は真面目。でもおっとりマイペース。

一人暮らし、父親は他界・母親と祖母が健在。

アルバイトは現在しておらず、田舎からの仕送りで生活。

新しいことに挑戦したがる傾向が強い。



レグさん、武蔵野大学は実在しますよ?実在するしないでこだわらなければ、私はいいと思います。




四月のある土曜日。渚は原宿表参道にいた。

その後、小松とは数回メールのやりとりをし、勇気を出して互いの休みの日にランチデートの約束を取り付けた。

今日はそのデートに着ていく服を買いに来たのである。

彼はどんな服が好みだろうか…そんなことを考えながら渚はうきうき気分で店を回っていた。

二時間近く回り続け、さすがに疲れてきたなと思った頃、小さなショップのショーウィンドーに飾られたワンピースに目がとまった。

薄い水色地に白の小花柄のシフォンワンピース。

「これ、いいかも」

さっそく試着させてもらうことにした。

「きゃあかわいい」

渚はこのワンピースがいたく気に入った。値段は少々高めではあったが、そんなことは気にならない。上機嫌でそのワンピースを買っていった。



 渚がファミリーレストランでアルバイトを始めたのは大学が決まった昨年の冬のことだった。

初めてのアルバイトということもあり、何もわからなかった渚に、店長の小松はいろいろと教えてくれた。

そして渚はいつの頃からか小松に恋心を抱くようになった。

いや、もしかしたら、面接で初めて会った時から好きになっていたのかもしれない。彼は渚にとってとても大切な存在になっていた。


 夜間のアルバイト店員たちは、渚と同じ学生が多かった。

週二だけにしてほしい、土日は入れない、定期試験なので一ヶ月休ませてほしいなど皆好き勝手なことを言っては、シフト表を作る小松を悩ませていた。

渚も講義にサークルにと忙しくはあったが、小松のことを思い、週五日はアルバイトに入っていた。

もちろんそれは、小松に会いたいがためという理由もあったが――――



 街道沿いにひっそりとたたずむイタリアンレストラン。レストランというよりもトラットリアといった感じのカジュアルな店である。

その店のテーブルに、渚と小松は向かい合って座った。

「この辺りはたまに通るけど、こんな店があるなんて知らなかったよ」

小松が言った。

「ここ、お薦めなんです。よく友達と行くんですけど、とってもお得なのにおいしくて」

そう言う渚だったが、この店は飲食店の検索サイトで見つけた店であり、一度も来たことはなかった。

「店長にはいつもいろいろとお世話になってるから、今日は私が御馳走させていただきます」

「いいよいいよ」

「いえ、あたしが誘ったんですから、あたしが…」

「じゃあ、割り勘で」

言いながら小松はにっこり笑った。

渚は今にも心臓が壊れてしまうのではないかと思うくらいドキドキしていた。


「乾杯」

ランチということで、二人はブラッドオレンジジュースで乾杯をした。

(ど、どうしよう…手が震える…)

渚は緊張を隠すのに必死で、料理の味など全く感じることができなかった。

小松と目を合わせることができず、ただテーブルに並べられた料理を見つめながら、他愛もない会話を続けた。

緊張を隠すためだけではない。この時間が永遠に続けばいい。渚はそう思っていた。

だからひたすらに自分のことや、家族のこと、友人のことを喋った。会話を途切れさせたくなかった。

小松も渚の話にしっかりと耳を傾けてくれていた。


もうすぐ二時間が経とうとしていた時、小松がそれとなく切り出した。

「店のみんなにはまだ誰にも言ってないんだけど…」

「えっ?」

渚はドキンとした。まるで心臓を何かで突かれたような、そんな痛みが走った。

「来月、結婚するんだ」


サーッと音をたてて、血の気が引いていくのがわかった。

「お、おめでとうございます」

そのまま椅子から崩れ落ちてしまいそうなくらい辛かったが、渚は全身全霊を込めて瞬間で笑顔を作った。

「式は挙げないんだけどね。俺も店長になって二年経つし、もう付き合って六年になるから、そろそろ一緒になろうかなと思って」

小松の結婚発表はあまりにも唐突で呆気なかった。

「よかったですね。幸せになってください」

渚は必死で動揺を隠しながら、月並みな言葉を並べた

それから先の記憶はほとんどなかった――――――



 ―――――あたしは馬鹿だ。大馬鹿だ。

メルアドを教えてもらえたくらいで、デートしてもらえたくらいで、何をあんなに浮かれていたのだろう…。

 あたし、彼のことなんて何も知らなかった。彼女がいたことさえも知らなかった。

 あんなに素敵な人なんだから、彼女がいるに決まってるのに、

 あたしは、一体何を期待してたんだろう。何を望んでたんだろう。

 もしかしたら彼は、あたしの気持ちを察してたのかもしれない。

 だから、あの場で結婚の話をしたのかもしれない。

 なのに、あなたはどうしてあたしにあんなに優しくしてくれたの?

 どうしてデートの誘いに乗ったの?

天国から地獄に突き落とされたような…

 あなたは、あなたは、残酷です――――――


 突然、雨が降ってきた。

予報では全くそんなことは言ってなかったので、傘を持っている訳もなかった。

 強くてあたたかなスコールのような雨。

心の中はもう空っぽだった。

ずぶ濡れになりながら渚はただひたすらに歩いた。

雨が涙を隠してくれた。

あてもなく歩いていたはずだったが、いつしか自然とカフェのある通りまで来ていた。

まるで、何かに導かれるように…


「渚」―――

後ろから呼ぶ声が聞こえた。

振り向くとそこには傘を持った少女が立っていた。

「美姫…」

美姫はこちらに近づいてくると、傘を持つ反対の手で、渚を抱きしめた。

「…美姫、濡れちゃう…」

「いいのよ…」

渚が美姫と知り合ったのは、中学の頃であったが、彼女は顔も体もその頃から全く変わっていなかった。

「成長が止まってしまう病気なの」美姫は以前そう言っていた。

自分より10cm以上背の低い少女は、まるで母親のように渚を包んでくれた。

「美姫…あたし…あたし…」

「…なにも言わなくていいわ…」

美姫はまるで全てを知っているかのようだった。

土砂降りの雨の中、渚は美姫に全てを委ねていた。



 美姫は渚をカフェのとなりにある自宅まで連れていった。そしてシャワーと着替えを貸してくれた。

「ちょっと小さいかもしれないけど」

「大丈夫。美姫、ありがとう…」

落ち着いてきたところで、何か温かいものをと美姫は渚をカフェへと連れていった。


「いらっしゃい。久しぶりだね、渚ちゃん」

店には長髪をひとつに束ねた青年がいた。アルバイトの天鵞翠雅だった。

「…あんた、まだいたの?」

「いいご挨拶だなあ」

翠雅は苦笑した。

「いろいろ忙しくてさ、なかなか入れなかったんだよね」

いろいろ忙しいって、どうせ女絡みじゃないの?と渚は思った。

「でも、今月からはバッチリ働くんで、渚ちゃんももっと店に来てよ」

翠雅はいつもの笑みを浮かべて言った。

「ここはホストクラブかっての」

渚は頭を押さえた。

「ホストクラブになんてなったら、渚ちゃんはもうVIP待遇だよ。僕の大切な人だもん」

「あんた…やっぱり相変わらずね…」

翠雅は渚と同い年だったが、遊び人で、自分よりはるかに恋愛ものごとを知っていた。

渚は彼が苦手だった。

「ホストクラブも悪くないなぁ」

渚に温かいジャスミンティーを持ってきた藤原が言った。

「新しい子が入ったんだよ。浅黄くんと言ってな、なかなかのイケメンだぞ。天鵞君、浅黄君、そして私、イケメンスリートップ、最強の布陣となったのだよ」

「ぷっ」

翠雅は失笑した。

「マスターはイケメンじゃないでしょ」

「な・ん・だ・と?」

藤原は翠雅を睨んだ。

「マスターはナイス・ミドル、いや、ナイス・ガイってやつ?男としての深み、格が僕とは全然違いますよ」

「そうだよな、お前のような青い上に軽い奴と私が同格ってのはおかしいよな」

翠雅の妙なフォローに藤原はすっかり気を良くしていた。

何言ってんだかと、渚の表情も少しずつ穏やかになっていった。


「渚ちゃん、今日は飲んでかない?俺のおごり」

「…じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。今日は飲みたい気分だし」

翠雅の誘いなどいつも乗ってこない渚だったが、今日は違っていた。

(おいおい…)と思いつつ、藤原は苦笑し、「じゃあ何かつまみでも作るよと」厨房に入って行った。


 渚に何があったのか、翠雅は気になっていた。美姫に連れられて店に入ってきた渚は、化粧もしておらず、まるで生気を吸い取られたかのような顔をしていたからだ。

酒で気持ちを解かせ、胸の内を語らせる。それは彼の常套手段であった。

翠雅は棚からウォッカ、冷蔵庫からジンジャーエールを出すと、それらをグラスに注ぎ、手際良くモスコミュールを作った。

「ハイ、まずはモスコ」

言いながら翠雅は冷えたグラスをカウンターに置いた。

「いただきます」

渚は一気に飲みほした。

翠雅はカウンターに両腕をついて前かがみになり、ゆっくりと顔を近づけてきた。そして渚の目を見つめて微笑んだ。

「フフッ、いい飲みっぷりだね」

整った顔立ち、翡翠色の美しい瞳。

渚は思わずドキッとしたが、いけないと我に返り、翠雅から顔を離し、目をそらした。

きっとこんなことは他の女性にもいくらでもやってるのだと渚は思った。

こんなことで心を揺さぶられるわけにはいかない。

渚はいつも、この強い気持ちを持って翠雅と向き合っていた。

 しかし、四杯目のカクテルを飲みながら、渚はとつとつと語り始めた。


「あたしね、今日大切なものをなくしたんだ」

だいぶ酔いがまわってきたようである。

「大切なものって?」

そらきたとばかりに翠雅がきいた。

「あたしの、心の中にいた人、一年間ずっと、いつもあたしの心の中にいた人、今日いなくなっちゃった」

言いながら、彼女の目から大粒の涙がこぼれた。

やはり失恋かと翠雅は思った。

「渚ちゃんくらいかわいかったら、他に男はいくらでもいるでしょ」

翠雅はミニタオルを渡しながら慰めたが、その言葉はあまりに空しく響いた。

「スイくんは本気で人を好きになったことある?」

翠雅は一瞬ドキッとしたが、すぐにいつもの自分を取り戻した。

「僕はいつでも本気だよ」

「そんなんじゃ心がもつはずないじゃん」

渚はグラスを揺らし、氷をカランカランと鳴らしながら言った。

「ただずっと彼を見てたかったのよ。ただ近くにいられればそれでいい。付き合いたいとか現実的なことは考えてもみなかった。でも、だんだん欲が出てきちゃったんだよね。だから、苦しくて…」

欲を持つことは自然のことだと翠雅は思った。

店には他に客はおらず、藤原と美姫も気を遣い、厨房にいた。

渚はカクテルを飲み干して言った。

「死ぬほど好きな人だったんだぁ…」

渚の言っていることは、半ば支離滅裂ではあったが、その想いの強さはよく伝わってきた。

身も心も擦り減らしてまで、誰かを想うなんて…。

「死ぬほど好きな人」、一生に一度くらいはお目にかかりたいものである。

それとももう出会っているのかなと翠雅は思った。



ゆったりとしたピアノの前奏が流れてきた時、渚が言った。

「この曲、好きなの」

「Let It Beだね。ビートルズの」

翠雅が言った。

渚はしばらく、じっとその曲を聴いていた。翠雅も黙って一緒に聴いた。

「もう大丈夫。変な話、聞いてくれてありがと」

渚は顔を上げて言った。

「どんな話でも聞いてあげるよ」

翠雅は言った。



「あーあ、本当はここを店長と一緒に歩きたかったなあ…」

渚と翠雅は運河沿いを歩いていた。


ちょうど仕事の終了時間となったため、翠雅は渚を家まで送ることになった。

というか、彼女はまだ酔いが覚めておらず、一人で帰ることは危険だった。


雨もすっかり上がり、夜だというのに暖かな風が吹いていた。

桜並木はすっかり葉桜になっていた。

「その店長は幸せだね。渚ちゃんにこんなに好きになってもらえてさ」

「スイくんのこと好きな女の子なんて、たくさんいるでしょ」

「どうかな」

翠雅は苦笑しながら、自分を愛してくれた女たちを思い浮かべた。


渚のワンピースと上着は美姫が乾燥機をかけた浴室に干しておいてくれたため、すっかり乾き、着て帰ることができた。

穏やかな風が渚の髪とワンピースを揺らしていた。フワリとした服だが、薄い生地なので、身体のラインがよくわかった。

しなやかな身体、生地の向こうの肌の柔らかさ、温もりも感じられた。

男心をくすぐるワンピースだなと翠雅は帽子を押さえながら苦笑いした。

「今日の変な話は忘れてね」

渚は笑顔を見せたが、その表情はまだどこか寂しげだった。

翠雅は右手の親指側を額に近づけ、「了解!」のポーズをとった。


―――― 今なら彼女を落とせそうな気がする。

しかし、失恋したばかりの気持ちにつけ込むなどということは、彼のポリシーに反していた。

恋に恋する、純粋可憐な乙女。彼女はまだ、男を知らないのかもしれない。

これは安易には手を出せないなと翠雅は心の中で苦笑した。


渚はバッグから、小松にもらった携帯のストラップを出した。

ストラップを持った右手を大きく上に上げると、そのまま運河に勢いよく投げ捨てた。

ストラップは水面に落ち、波紋を描いた。その時…


波紋が大きく広がり、そこから波がさざめきだした。

「え、何?――――」

強い風が吹いてきて、渚のワンピースがはためいた。

先ほどまで穏やかだった運河が、突然嵐のように荒れだしたのだ。

「何?!何があったの?!」

波は堤防すれすれのところまできており、水しぶきも飛んできた。

「いやぁぁっ!何これ?!」

渚はパニック状態になっていた。

「ひとまずあっちへ行こう」

翠雅は渚を庇いながら階段をのぼり、土手の上まで連れて行った。

嵐はしばらく続いた。


――――彼女には水を操る力がある。


翠雅ははっきりそう感じた。


                           つ・づ・く







次の日曜日。渚にとっては、久々にバイトを入れていない週末だった。

穏やかな日差しの差し込む窓辺の席に腰掛ける。カフェには今日も優しいピアノの曲が流れていた。


あれから、小松とはまったく連絡を取り合っていない。

あの雨の日の翌日、バイトのシフトを入れていた渚は、苦しみを押し殺してファミレスに行った。自宅の鏡の前で、何度も笑う練習をして。

しかし、幸いなことに…というべきか、その日は小松の姿が見えなかった。

新店舗の手伝いに行ったか、会議でもあって外出しているのだろう、と渚は少しだけ詰めていた息を吐いた。

しかし、彼の居ない日が、三日四日と続くとなんとなく不安になって来る。

“あの雨で、風邪でも引いたのかな…”

バイトの子たちに説明一つないまま、代理の店長が来て、店は滞りなく営業されていた。

何度も携帯を開いては閉じる。

消せなかったメルアドも、そのままそこにあった。

本当は、思い切って彼が来ない理由を聞きたい。けれど、失恋したばかりの渚には、中々その勇気が持てなかった。


「…大丈夫?」

はっと、意識を戻すとカフェのマスターが手を止めた彼女をじっと見ていた。

「美味しくなかったかな、それ…」

「え、いえ、凄く美味しいですよ!」

今日、渚はカフェの新作ケーキの試食に駆り出されていた。と、言っても元気のない友人を心配した美姫が、気を使ってくれたに違いないと思っている。

「そう?もう2種類あるんだけど、こっちも味見して貰えるかな?」

「マスター、マスター。私を太らせようとしてません?」

渚は無理にでもにっこりと微笑んで見せた。


「女の子って強いなぁ…」

その笑顔を見て、翠雅がポツリと呟いた。

「死ぬほど好きな人だった」―――渚の言葉を思い出し淡く胸が疼く


店のBGMは、あの夜と同じビートルズの『Let It Be』。

ただ、それはいつものCDではなく、店の片隅に置かれた黒いグランドピアノから紡がれていた。翠雅の手によって。

オリジナルをだいぶ崩して装飾音符を多用し、アップテンポで弾かれるその曲は、まるで二匹の子犬がじゃれて転がるような軽快なジャズと化している。

特別習ったこともないが、幼い頃から楽器に親しむ環境にいた彼は、力むこともなくポロポロと鍵盤を奏でる。暇があったら自由に弾いていいよ、とマスターに言われてから、このピアノの前は彼のお気に入りの席だった。

皿洗いも洗濯も…彼が付き合っている女性達のご厚意に甘えてしまうことも多かったが…自分でしている割に、翠雅の指は整っていて長く、荒れることが少ない。それはある高名なピアニストと似た形でもあった。


「スイ君は音楽が好きなのね」

紅茶を渚のところに運んでいった美姫が、ピアノの前で立ち止まる。

「そう見える?」

「ええ。普段よりずっと真っ直ぐに響いて来るもの。スイ君の心が」

「聞かれると困るものが多いから困るなー」

美姫は慈愛を込めた眼差しで渚を見つめ、それから翠雅に視線を移す。

「…スイ君は、本気の恋をしたことがないんじゃなくて、自分は本気で恋なんてしない、と思いたいだけじゃないかしら」

「………!!」

途端に混じる不協和音。

滑った指先を止めて、翠雅は溜め息を吐く。

「…さすが、美姫ちゃんには叶わないよ」

音楽が変わる。ビートルズメドレーから、もう少し緩やかなメロディへと。

僅か14歳の少女が、銀幕で歌ったバラード。

「……遠い世界への憧れの歌ね」

「僕にとって、恋はいつもこういう感じ。本当に欲しいものは手が届かない。届かないからこそ美しい。掴むことが出来ない虹のように」

「…だけど、手が届いても美しいものはあるわ、きっと」

翠雅は横目で美姫を見た。渚が水の力を持っていることを打ち明けるべきかどうか彼は迷っていた。

けれど、美姫は全て知っているのだろうと思い直す。

初めてこの店に来た日の自分の事を知っていたのと同じように。



一年近く前の深夜。翠雅は左頬を腫らせてこの店の前に立っていた。

数時間前、バイト先の居酒屋の先輩といざこざを起こして、クビになったばっかりだった。彼女を寝取ったと責められ、渾身の力で殴られた。避けられたが避ける気もしなかった。殴った方も殴られた方も平等に解雇され、ただ泣きそうな目をした女性だけが残った。

…どうして彼女は、僕なんかに本気になったんだろう。

翠雅は思う。先輩の方がずっと男らしくて、誠実で、優しかっただろうに。

軽口を叩いても口説いたことはないし、寝取ったなんてまったくの濡れ衣だった。女のプライドがもたらした小さな嘘。自分に見向きもしなかった年下の青年に対する当て付け、あるいは、これが罰…か。

「日頃の行いが悪いからね…」

唇の端をぬぐう。指に赤い血がこびり付いた。

「新しいバイト先、早く探さないと…」

ふらふらと歩いて、そして突然このカフェの扉が開いた。

中学生ぐらいの少女が自分を見つめ、そして手にしたタオルを差し出した。まるで、最初から彼が通り掛るのを知っていたかのように。

「…今、この店はバイト募集中なのよ」

その言葉になんと返したかは、翠雅も覚えていない。

彼女は全てを理解した瞳で微笑んで、彼をカフェの中に迎え入れた。

それ以来、翠雅にとってこのカフェは大切な居場所だった。

ひらひらと舞う蝶のような自分が、たった一つ羽を休められる場所。

虹の彼方ではない、手の届く大事な世界。



ふいに鞄にしまったままの渚の携帯電話が鳴った。

「あ、メール?誰だろう…」

渚は慌てて携帯を取り出す。送り主を見てドキンと心臓が跳ねた。

そこに、小松の名前があった。

読みたくない…でも、出勤していないのは気になるしとしばし躊躇う。

しかし、震える手でメールを開いてみて、渚は更に唖然とした。

それは、こんな内容だったのだ。


このメールは、携帯に入っていた

全てのメルアドに送っています。

突然でごめんなさい。不躾なのは

判っています。でも、出来たら力

を貸して下さい。

私は小松の婚約者で、富永千穂と

いいます。

彼とずっと連絡がとれません。

自宅はおろか、仕事先にも来てい

ないと言います。

携帯だけが近くの交番に届けられ

ていました。

覚悟の失踪だろうと、警察は動い

てくれません。

彼がいなくなる筈ないんです。

もうすぐ、結婚する筈だったんで

すから。


そこまで読んだとき、渚の胸はキリキリの針を突き刺すような痛みを覚えた。

しかし、連絡が取れなくなったという日付を見てびっくりする。

彼女が小松と昼食を食べに行ったあの日だったからだ。


どうか、どうか、最後に小松を見

た方、連絡を下さい。

なんでもいいので、情報を下さい。

気が狂いそうです。


メールはそう締めくくられていた。

「もしあの日に他の人が会ってなければ、最後に会ったのは私…?」

渚の膝がガクガク震え出す。行方不明という事実に大きなショックを覚え、失恋の傷を抱えたまま婚約者の存在を突きつけられた辛い気持ちが交差する。

「…渚、顔が青いわ。どうしたの?」

美姫が駆け寄りそっと手を握った。その温もりに我に返る。

……二つの暗い感情よりも、小松の身を案じる心の方が遥かに勝り、渚を突き動かした。

「店長が行方不明らしいの!あたし、この富永さんていう人と話さなきゃ…!」



「うん、そろそろバイトの時間だから早めに行こうっと」

陸は腕時計を確認してから、駅前の大きな画材屋の三階にある美術書のコーナーから離れた。

カラー写真の多い絵画や彫刻の本は、総じて値段が素晴らしく高い。ヘタすれば、陸の一週間の生活費を軽く凌駕してしまう。

「うう…あの本、欲しいんだけどな…」

いつも立ち読みな陸だが、時々大学で使う高価な画材や専門書を買うので、店員も大目に見てくれている。顔見知りのレジのおばさんは彼にとても好意的で、今日も小さく手を振ってくれた。


街の中心の通りから僅かに路地に入ると、そこには思いがけない程静かな空間が存在する。

そこに馴染むカフェの佇まいは、陸も大変気に入っていた。

「今度の出展作品は、こういう雰囲気を出したいんだよなぁ…」

喧騒から守られた穏やかな静寂というか、逆に喧騒があるゆえの静寂、例えばモノクロ動画の中で、唯一動かぬ一輪の花のような…。

陸がそんなことを思って首を捻っていると、背中にどんと突き飛ばされたような衝撃が走った。

「あっ」

よろめき掛けて、なんとか踏みとどまる。振り返って何か言おうとした声は、舌の根で凍りつく。

「…あ、ご、ごめんなさい。すみません…っ」

彼にぶつかってきたのは、まるで一週間食事も取らず、眠っていないのではないかと思うようなやつれた女性だった。徹夜明けの腫れぼったい瞳、カサカサになった唇、目の下の隈…は、展覧会前には友人達もこういう姿になるので大体見慣れているが。

頬はこけて生気を失い、化粧も殆どしていない。

「ど、どうしたんですか?!歩けますか??」

陸は、しきりに頭を下げそのせいでまたよろよろとふらつく女性を両手で支えた。

「駅に行くんでしたら、通りでタクシーを拾った方が…」

「いえ、違うんです。この辺りに、喫茶店がある筈なんです。英国風の綺麗な建物で、紅茶が美味しくって、特に今週はシナモンティーがお勧めの…」

そんなこと言われても普通は“判らない”で済んでしまうだろう。

しかし、陸としてはこれからバイトに行く先の連想キーワードを連発され、

「…あ、じゃあ一緒に行きましょうか?」

と言う他なかった。




(つづく)

え~、この↑女性が婚約者の富永さんです~。

陸君までしか入らなかったよ!ぽぽさんそーりー。


エズさん、渚ちゃんをスイと絡ませて下さってありがとうございます~。

彼は“本命に連敗中”なので、失恋経験は実はいっぱいあったりします…。

本人は「本気じゃなかった」と強がって居ますが、手も握れないうちに他の男にかっ浚われるヘタレ君。遊ぶ相手は大体年上のおねえさん。

スイが最後に弾いていた曲は、『Over the Rainbow』です~。なんか意外と乙女チック?!


呼称一覧(翠雅編)

自分=僕

相手=女性~ちゃん、男性呼びつけ(年上は~さん)

渚=渚ちゃん

陸=陸

翔=お客様(現時点)

マスター=マスター

美姫=美姫ちゃん


大学名は武ノ蔵大学でいいかと。

カフェ名、“Ad astra”以外でいいのがあればアイディアお願いします~。




「あの、大丈夫ですか?」

陸はよろけるようにして歩くその女性に言葉をかける。大丈夫であるはずがないのだが、そう尋ねずにはいられなかった。化粧もせず、やつれた顔にばさばさの髪の毛に青白い肌。元々はそれなりに美人だったのかもしれない。陸は、昨日テレビで見た妖怪女を思い出していた。いや、それはさすがに失礼か。

「この辺で喫茶店っていうと、僕がアルバイトしている『Ad astra』っていうところしかないですが、本当にそこでいいのですか?病院へいった方がいいのでは?あ、救急車呼びましょうか。救急車は何番でしたっけ、110?117?えと」

「その喫茶店へ案内してくだされば結構です、あの人の命がかかっているんです!」

血相を変えたその顔に、陸はただ、はい、と言うしかなかった。一体、何が起こっているのだろう。まさか、喫茶店の中にテレビ番組スタッフが隠れていて、これはどっきりでしたー!と言うわけでもなかろう。いや、その方が良かったかもしれない。

何故この女性は、こんなにもやつれた顔をして喫茶店を探しているのだろう。具合が悪いなら病院、人を探すなら警察ではないのか。陸が知っている限り、このあたりの喫茶店はAd astraしかないし、あとはコンビニエンスストアーと、ファーストフードがあるぐらいで、他はどこかの会社が入った小さな駅ビルやマンションが並んでいるだけだ。

自分がアルバイトしている喫茶店に行きたいというのなら、バイト仲間の翠雅、マスターの藤原店長、それからその娘の美姫・・・3人の知り合いということは考えられる。だが、この状況は尋常ではない。

「あと、何だっけ、良く来ている人・・・」

常連客の名前を思い出しているうちに、Ad astraが見えてきた。

「あれです」

陸が指を指し示すと同時に、その女性は喫茶店へ転がるように走っていった。陸は数秒の間立ち止まり、店に入るのも少しためらったが、しばらく間を置いて店へと入った。


「こんにちわー!」

陸はいつもの通り、挨拶をしながら店へと入る。アルバイトを始めて2週間、店の雰囲気にも慣れてきた。いつもなら、カウンターにいる藤原マスターがにこりと笑顔を浮かべ、アルバイトの先輩である翠雅がぱっと手を上げて挨拶をしてくれるのだ。しかし、今は店内に客がなく、いるのは翠雅だけであった。

「スイさん!あの、今さっき」

「女性が来たよ、マスターと客室で話をしてる。僕たちは、いつも通り仕事をしててくれって」

「そ、そうですよね」

やはり、マスターの知り合いなのだろう。何か大変な話をしている事には違いないだろうが、だからといって他人である陸には関係のない事だ。

陸はいつもの通りエプロンをかけると、溜まっている食器を片付ける事にした。

「あの女の人、どなたなんでしょう?」

「店長の知人だよ」

翠雅はそれだけ答えて、テーブルを拭き始めた。

翠雅はあの女性の事を知っているのだろうか。陸は気になって仕方がなかった。自分の知らないところで何かが起こっているのかもしれないが、だからといって自分には関係のない事。けれども、あの女性の青白いな、雪よりも真っ白な顔が忘れられなかった。彼女が誰かを探しているようなのだが、何故ここへ来たのか。陸は自分まで不安になってしまっていた。

「あ、そうだスイさん、見てください、あそこの棚に置いてある僕の作品・・・ああっ!!」

陸が店内の壁に設置された棚を指差した瞬間、棚に飾ってあったくまの石像が床に落ちた。幸い、床に絨毯が敷いてあった為割れずに済んだので、陸はふうと息をついてくまを元の位置に戻した。

「ぎりぎりの場所に置いたのかな。地震でずれたとか。割れなくてよかったあ。これ、僕が作って昨日、店長にここに置かせてもらえる事になったんですよ!」

陸は嬉しそうにしながら、くまを撫でた。

「ぬいぐるみみたいなくまですけど、可愛いでしょう?」

「そうだね、良い作品だと思うよ」


翠雅は見逃さなかった。くまが落ちたのは偶然ではなく、陸がくまを動かしたからだ。だが、陸はまだ自分の力に気付いておらず、その力はすぐに消え、くまが床に落ちてしまったのだと。

「何かが、動き始めているのか・・」

先日の渚もそうだった。彼女自身はまだ気付いてないが、彼女もまた水の力に目覚めつつある。不思議な力を持つ者が、お互いに知らないうちに1つの場所へ集まり始めているのだ。それがこの店だとしたら?

「いらっしゃいませー!」

陸の声に、翠雅は顔を上げた。

「あ、こんにちわ、えと、えと」

「不知火・翔だよ、いつも名前を忘れるんだから」

常連客の不知火・翔が、店の入り口に立っていたので、翠雅はいつもの笑顔を見せた。


(続)


思い切り止めました、申し訳ない・・・!


とりあえず事件勃発ってことで、皆を喫茶店へ集合されるように持ちかけてみました。何となく、渚ちゃんは別ルートから小松さんを探そうとする(メールを受け取っているのは渚ちゃんだけなので)感じがしたので、今回は登場してませんが、後は自由でよいかと思います。美姫ちゃんもまだ登場してないんですけど、どう持っていくかはお任せですよ~(笑)


ところでこの店、時給いくらなんでしょうね?



数日後、翔は大学院の帰りにいつものカフェに立ち寄った。

あれから、レポートの提出も無事済んで明日から少し休めるのだ。

帰る前にここのコーヒーを味わっておきたかった。

しかし今日は扉を開けてちょっと戸惑った。なんだかいつもと雰囲気が違う…。

いつもの女性の声がしない。

「いらっしゃいませ、いつものメニューでいいですか?」

オーダーを取りに来た店員はにこやかに接してくれる。

この接客の良さも翔は気に入っている。しかし…。

「あ、はい。それで。……あの!」

翔は思わず店員を呼び止めていた。

「はい?トッピングだけ、変えますか?」

「いや、そうじゃなくて…なんだか…その、何かあったんですか?」

翔は自分でも分からない、でも考えるよりも前に言葉が出たと言う感じで聞いていた。

「え…はぁ。いや…。」

ずいぶんと歯切れが悪い。これでは何かあったと言っているようなものだ。

しかし店員(翠雅)迷っているようだった。それはそうだ、常連とはいえ、翔はただの客だ。

「あの、何か困っていることがあったら、俺、手伝います!」

随分と思い切ったことを言ったものだ。翔は後で振り返ってそう思った。

そんな翔とのやり取りに、また別の店員(陸)が近づいてきた。

「どうした?」

「いや、仕事を手伝ってくれるって。」

「はぁ?」

陸は訳が分からない様子だ。

そんな2人を前に、翔は思い切って話してみた。

自分には不思議な力があることを…。



すみません!私も思いっきり止めました。そして短い!

ちなみに翔は自分の力に気づいています。そしてコントロールも出来ます。




千穂と話をしなければ・・・

そう思う渚だったが、メールを返信するのに躊躇していた。

結婚間近の彼が他の女性と会っていたなど、彼女が知ったらどう思うだろうか。

それに、小松の婚約者に会うということは、今の渚にとってかなりつらいことだった。

しかし、そんなことを言ってはいられない。

思い切ってメールを返信しようと思った矢先、美姫から電話がかかってきた。

「美姫?」

「店長の婚約者の方が店に来ているの」

「えっ?!」

胸がドキンとした。

「店長、行方不明になっているみたいで・・・」

「・・・今から店に戻るわ・・・」

アストラを出てからさほど時間は経っていない。

急な展開に戸惑いながら、渚は元来た道を引き返した。

雲行きも何だか怪しくなってきていた。渚は走り出した。


「まあ、とりあえず、これでも飲んで落ち着いてください」

ひと通り話し終えた千穂に、藤原はシナモンティーを出した。

「この喫茶店に来れば何かがわかるっていうようなお告げみたいのがあって・・・

でもどの店かよくわからなくて、探してたら人にぶつかってしまって・・・」

「それが浅黄くんだったわけか・・・」

頷くと千穂はシナモンティーを飲んだ。

「・・・おいしい・・・」

青白かった千穂の顔に、少し血の色が戻ってきたかのように思えた。

その時、美姫に連れられて渚が応接室に入ってきた。

「あの・・・あたし・・・小松さんが店長をしているお店でアルバイトしている由比渚といいます・・・」

渚はおずおずと名を述べると、千穂に向かって深く頭を下げた。

「申し訳ございませんでした」

しかし、千穂はきょとんとした表情だった。

「・・・あの・・・孝俊(小松の名)と何かあったんですか?・・・」

「えっ?・・・」

小松の携帯が手許にあるなら、きっとメールの送受信や発着信の履歴を見ているはずである。

しかも彼とは、行方不明になった日に何度かメールのやり取りをしているので、自分の名前はすぐに出てくるはずだった。

にもかかわらず、自分にメールしてこないのがいささか不自然ではあった。

「あの・・・小松さんの携帯のメール、ご覧になりました?」

渚はおそるおそる尋ねた。

「それが・・・」

千穂は小松の携帯を開いた。見覚えのある携帯に渚はドキンとした。

「一昨日、交番に届けられていたこの携帯を受け取ったんですけど、

今まで送受信したメール、発着信の履歴が全部消えてたんです」

「・・・えっ・・・」

あまりの不気味さに、渚の体に悪寒が走った。

「ただ、アドレス帳だけは残っていて、藁にもすがる思いで、登録されてた人全員にメールを送ったんです。

だけど、有力な情報が得られなくて・・・」

言うと千穂は再び肩を落とした。

「・・・あの・・・」

渚は震えながら言った。

「小松さんが行方不明になった日、あたし、彼と会ってたんです・・・」

「えっ?!」

千穂は目を見開いた。

「なんですって?!」

立ち上がると千穂は渚を睨んだ。

「あの・・・それはあたしが一方的に、ランチに誘ったんです」

「・・・どういうことですか?」

「あたし、店長が結婚するってことも、ましてや彼女がいることも知らなかったんです。

結婚するってことはあの日初めて聞かされて・・・申し訳ございませんでした」

言いながら渚は再び千穂に深々と頭を下げた。

「もうっ!どういうことなのよ!」

千穂は両手で頭を押さえこんだ。

「まあ、落ち着いてください」

藤原は千穂をなだめ、二人を椅子に座らせた。

「あなたと会った後、孝俊はどこに行ったんですか?」

「それは・・・あたしにもわかりません・・・三時ごろ下小田駅で店長と別れて・・・

店長はその日一日休みって言ってたから、家に帰ったとばかり・・・」

「私、仕事を終えて六時ごろ家に戻ったんですけど、彼はいませんでした」

「・・・・・・」

「ちょっと出かけたんだろうくらいに思って、夕食を作って待ってたんです。

だけど一向に帰ってこなくて・・・。電話も通じなくて、メールしても音沙汰なしで・・・」

渚は黙って俯いていた。

「あなた、孝俊のことが好きなんですか?」

「えっ?」

驚いて渚は顔を上げた。

「そういえば最近、彼の行動がちょっとおかしかったんです。コソコソメールしたりしてて・・・」

渚はドキンとした。

「私には仕事の話だって言ってたけど、あのメールの相手はあなただったの?」

「あたし・・・だったのかもしれません・・・」

渚は再び俯いた。

「でも・・・あたしが勝手にメールしてたんです。店長はきっと困ってたと思います。

店長のことは好きというか・・・憧れてて・・・」

「あなたいくつ?!憧れって、中学生じゃあるまいし!もしかしてあなた、孝俊と寝たの?!」

「とんでもないです!あたしの我が儘で、一緒に食事に行ってもらっただけです!」

渚は大きく首を振りながら言った。

「まあまあ・・・渚ちゃんは今時の子にしては珍しいくらい純情だからね。彼とは何もない。私が保証します」

藤原が仲裁に入った。

「とにかく、一刻も早く小松君を捜さなくてはならない」

「お父さんちょっと・・・」

美姫が藤原に声をかけた。

「ちょっと失礼します」

二人は応接室を出て行った。

残された千穂と渚はただひたすら無言だった。

重々しい空気が部屋に充満していた。


しばらくして藤原と美姫が戻ってきた。

「小松君は、私たちが何としてでも見つけ出します」

藤原が言った。

「えっ?!」

千穂と渚は驚いて藤原を見上げた。

「実は知り合いに優秀な探偵がおりまして、捜索を依頼することにしました」

「そんなこと・・・」

「我々だけでどうこうできる問題ではありません。ここはプロの力を借りまして、

富永さんはお家に帰ってゆっくりと休んでください。大丈夫、彼は必ず見つけ出しますから」

藤原の言葉に安堵したのか、千穂はわっと泣き出した。

「美姫、タクシーを呼んであげなさい」

「はい」

外は大雨だった。静まり返った応接室に、雨音だけが響いていた。


 呆然とした顔で渚は応接室から店に入ってきた。

「どうしたんですか?!」

陸が尋ねた。

そっとしておいてあげなよとでも言うかのように、皿を拭いていた翠雅が目配せをした。

渚はゆっくりとカウンターに腰を下ろすと、両手で顔を押さえて言った。

「店長が行方不明になったの・・・」

「店長って誰ですか?」

「あたしのバイト先の店長。さっきの女性ひとは店長の婚約者なの」

「そうなんだ・・・だからあんなに憔悴しきってたんだ」

陸は納得した。

「新しいバイトの人?」

翔を見て渚が言った。

「いや、俺はこの店の常連で、不知火翔といいます。一体何があったのか、詳しく教えてもらえますか?お力添えします」

「知り合いが行方不明になってしまって・・・詳しいことはあたしもよくわからないんです・・・」

渚は頭を押さえた。

「でも彼女、どうしてこの店を探してたんだろう?」

翠雅は疑問に思っていた。陸が続けた。

「そうですよね。この店に行けば、何か手掛かりが掴めると思ったんですかね。だけど、この店のこと、知らなかったみたいだし・・・」

四人はしばらく考え込んだ。しかし、何もわかるはずがなかった。

その時、応接室で話をしていた藤原と美姫が部屋に入ってきた。

「浅黄君、店を閉めてくれ」

藤原が言った。

「えっ?まだ6時半なのに・・・」

陸は驚いた。

「これから重要会議を開く」

「えっ?あ、はい・・・」

陸は店の入り口のドアにCLOSEDの札をかけた。


「君たち四人はここに集まるべくして集まったのだ」

「えっ?!・・・」

藤原の唐突な切り出しに、翠雅以外の三人は驚いた。

「風を操る力を持つ天鵞翠雅。

 地を操る力を持つ浅黄陸。

 火を操る力を持つ不知火翔。

 水を操る力を持つ由比渚」

「えっ?えっ?!」

陸と渚は藤原の言っていることが全く理解できなかった。

「君たちには、この地球を守るために戦ってもらいたいんだ」

「戦うって・・・あたしが?水を操る力?」

「ぼ、僕も、地を操る力なんて持ってないんですけど・・・」

「君たち二人も覚醒しているはずだ」

そういえば陸も渚も思い当たる節はあった。しかし、状況は全く飲み込めなかった。

「異星からの侵略者がこの地球に乗り込んできた。君たちには各々の力を駆使して、奴らと戦ってもらいたいんだ」

まるでSF映画のような展開に、陸、翔、渚の三人は激しく動揺した。

翠雅だけがまるで知っていたかのように落ち着いて話を聞いていた。しかし動揺していたに違いなかった。

「この人がその侵略者に誘拐された」

藤原は皆に一枚の男性の写真を見せた。

「小松孝俊さんという男性だ」

写真を見た渚は肩を落とし、顔を押さえた。

「て、店長です・・・」

震える声で渚が言った。

「えっ?!」

陸と翔は驚いて渚を見た。

「安心しなさい。彼は無事だ」

渚を慰めるように藤原が言った。

「ただ、奴らに利用されていると思われる」

「利用されてるって?!・・・」

顔を起して渚は藤原を見た。

「彼を救い出すことが、君たちの最初のミッションだ」―――――



「富永千穂さんをアストラに呼び寄せたのは姫なのですか?」

「ええ」

美姫が言った。

「彼女と、そして渚のお陰で、小松さんが今どうしているかがわかったわ」

美姫の前には大きな鏡があった。

「彼を想う二人の強い気持ちが、真実を映し出してくれたの」

「そうなのですか・・・」

藤原には全く何も見えなかった。

「二人には悪かったし、ちょっと穏やかではなかったけど・・・・・恋って不思議な力ね・・・」

美姫は微笑した。

「とうとう奴らにここ(地球)を突きとめられましたね」

藤原が言った。

「ここ最近、ずっと邪悪な気配を感じてたから。でもまさか、地球人を誘拐するなんて・・・」

美姫は険しい表情で宙を仰ぎ見た。

「足がつかないように携帯の履歴を全て消して捨てて、奴らもなかなかやりますな」

藤原は嘲笑した。

「姫は、彼が今どこにいるのかおわかりになられますか?」

「・・・わからないわ。でも、すぐ近くだと思うの」

言いながら美姫は何かを感じ取るかのように目を閉じた。

「地球のためにも、ラ・テスアのためにも、そして、姫の身の上のためにも・・・彼らには戦ってもらわないと。

しかし、四人の能力はまだバラバラで、奴らに対抗する戦力となるかどうか・・・」

言いながら藤原は頭を抱えた。

「今のうちは私が四人の力のバランスを取ります。やがては自分たちの力だけで戦えるようになるでしょう」

言いながら美姫は再び鏡を見つめた。


実は彼ら藤原親娘は地球上での仮の姿であり、

その正体はラ・テスアという星の王女、アルテミーシアとその側近であった。


ラ・テスアは異星人の侵略を受けた。

ラ・テスアを完全に手中におさめるには、アルテミーシアを手に入れる必要があった。

なぜならば、彼女はラ・テスアの象徴であり、絶対的力を持っているからである。

力といっても権力ではない。

ラ・テスアに生の力を与えている彼女は、ラ・テスアの命そのものといっても過言ではなかった。


侵略者たちの手から逃れるため、アルテミーシアと側近は、地球時間の八年前

(ラ・テスアと地球では時間軸が異なる)に地球に移ってきたのである。



 店を出た四人は駅に向かって歩いていた。雨はすっかり上がっていた。

「・・・どうして僕たちなんだろう・・・もっと頼りになる人なんていくらでもいると思うのに・・・」

釈然としないといった表情を浮かべて陸がつぶやいた。

「とにかく、俺たちは選ばれた人間だってことだろう」

翔が言った。

「これも運命だと思って受け入れるしかないさ。本当は僕も争いごとはあんまり好きじゃないんだけど」

翠雅が言った。渚は呆然としていて、ただただ無言だった。

「渚ちゃん、大丈夫だよ。君を傷つけさせたりはしないから。まずは店長を助けなきゃならない。だから一緒に戦おう」

言いながら翠雅は渚の肩にそっと手を置いた。

(スイさん・・・)

陸は心の中で苦笑した。

「俺たち四人。力を合わせて頑張ろう」

翔が言った。

「おいっす」(翠雅)

「ハ、ハイ・・・」(陸)

「・・・・はい・・・」(渚)

四人は各々の右手を重ね合わせ、軽く円陣を組んだ。


 その姿を不気味に見つめる影があった ―――――


                     (To be continued)



超強引な展開(笑)!意味不明なところがあったらごめんなさい。

そして何気に翔君をリーダーに持っていってる?!

翔くんと陸くんの一人称がわからなかったので、勝手に書いてしまいましたが違うなら直します。

あとアストラもカタカナ表記にしてしまいましたm(__)m


大場ちゃんごめん(汗)!スイくんちょっと直しておきました・・・軽すぎた?(^_^;)


私の主観ですが、本気で人を好きになることはあっても、死ぬほど好きレベルの人は滅多に現れないと思います。

渚にとって店長が本当にそれであるのかは微妙ですけど・・・


忙しくてなかなか書けない人はどうぞパスしちゃってくださいね(@^^)/~~~

今回遅れてしまった私が言うのも何ですけど(^^ゞ・・・




「姫。そういえば、あのようなことを言って良かったのですか?」

藤原が問う。

「…いいのです。この戦いは無理矢理仕向けられて臨み、勝利出来るほど甘いモノではありません」

美姫…いや、アルテミーシアは目を閉じて呟く。

「それに、私はみんなを信じているから」

それは、美姫としての言葉であったのかどうか。

「…だから、封神具の作成を急ぎましょう…」

「はっ」

藤原は深々と頷いた。



ガイアの神託だ…

ガイアの神託がおりるぞ…


小松は、ざわざわした声の中で目を覚ました。

意識が朦朧としてはっきりと物事を考えられない。


“たしか、バイトの子とランチを食べて、それから…”


「鎮まるがよい」

声は遥か頭上で聞こえた。

ざわざわと騒いでいた声が、一瞬で消え去る。小松にはそれが何より不気味に感じられた。

「神託は下ろされた」

小松の目の前に、巨大な黒い鏡が下りてくる。

「…そなたは蛇だ。全てを食らうピュートンとなるが良い」

目の前に映っていた筈の小松の姿が徐々に変化する。


“ああ…僕は蛇だったのか……”


小松の意識が徐々に暗闇に飲み込まれていく。

やがて、一匹の巨大な蛇が牙をむいて咆哮を上げた。



家に帰り、いつものようにお風呂に入った後、自分の部屋のベッドに腰掛けて。

渚は、美姫が最後に言った言葉を思い出した。

「…だけど、私はこの戦いを、みんなに押し付けたくはないの」

「美姫ッ?!」

藤原が慌てたように叫ぶ。

「だって、そうでしょう。世界が危ないから命を掛けて戦ってくれ、なんて私に言う権利はないわ」

だから、もし決心が付かなかったら、明日この店に来ないでいいのよ、と呟く。

「……そうしたら、美姫は、店長はどうなるの?!」

渚が声を上げる。

「…私は…一人でも戦う。この星を護るために。それが私の、アルテミーシアの使命だから」

そう言って微笑んだ美姫は、少し寂しげだった。



命を掛けて戦う…



その重みは、普通の大学生だった渚にはとても判らない。

だけど…


「美姫にあんな顔をさせちゃいけないわ。それに、店長を取り戻さないと…」





翠雅も、今日は女性達の家ではなく、自分のアパートに帰っていた。

六畳そこそこのワンルーム。男にしては綺麗に片付いたキッチンと、本棚とベッド。

そんなものを一瞥してから、ベッドの下に隠された細長い箱を取り出した。

「……なんか、開けるの久々なんだけど」

ゆっくりとケースを開く。ビロードの中に眩く納まっているのは、一本のフルートだった。

高価なプラチナが使用されたその楽器は、当然ながらこの家の一ヶ月の家賃より大分お高い。

瞳を閉じる。あの、雨の日を思い出す。

美姫が初めて、喫茶店に自分を招き入れてくれた日を。


滴る雫を美姫が渡してくれたタオルで拭いて、彼女の父親と思しきマスターが熱い珈琲を淹れてくれた。

普段は口が軽いほうでない翠雅も、腫れた頬の手当てを受けながらぽつぽつと事情を話す。

黙って話を聞いていた少女は、最後にポツンと一言だけ呟いた。

「……好きだったのね、彼女のこと」

「………ッ!」

翠雅はハッとして顔を上げた。

「僕は、本気で人なんて好きにならないさ。羽のように軽い、いい加減な人間なんだからね」

「……女の子はそういう感情には敏感だわ。自分を好きなのに、何も言ってくれないから…だから行動を起こした」

「ちが…そんな……」

先輩は優しい人だった。入ったばかりの自分の面倒もよく見てくれた。彼に愛されている彼女はきっと誰よりも幸せだろうと思っていたし、実際二人は誰からもお似合いだと言われていた。それなのに…。

「そんなの…間違ってる。僕を産んだ母さんと一緒じゃないか……ッ」

キリキリと心が痛む。誰にも吐き出せなかった本音が露になり、ぎゅっと手を握り締める。

「間違いじゃないわ」

少女は、百年以上歳を重ねた老婆ででもあるように、静かな声で言った。

「誰に恋をしたとしても、それは間違いなんかじゃない。貴方が生まれてきたことも、その能力も間違いじゃない。みんな意味があることなのよ」


「…判ってるよ」

翠雅は、母の形見であるフルートを取り上げて、僅かに笑う。

生まれたことに意味があるとするならば、この力を始めて認めてくれた彼女に、恩を返さなければならない。

唇を楽器に当てると、柔らかな音が溢れ出した。



翌朝、喫茶店に集まった人数は四人だった。

誰一人として、欠けてはいない。

「…逃げなかったのね」

「僕が渚ちゃんと美姫ちゃんを置いて逃げるわけないでしょ」

「地球が危険だっていうなら…僕にだって人事じゃないよ」

「のんびり読書もできないしな」

賑やかに喋っていた彼らは、藤原を傍らに出てきた美姫の姿に息を呑む。

純白のドレス。頭に頂いたティアラ。

そこには異世界の姫、アルテミーシアがいた。


「みんな……ありがとう…」

美姫は肩を震わせる。…本当は口で言う以上に心細かったのかもしれない。


「みんなに、戦いを助ける封神具を授けます」


まず、渚に近付くと銀色の美しい鏡を差し出す。

「これは、真実の鏡。彼らの操るモンスターの正体を見極め、弱点を見出す力があります。どんな幻覚も、この鏡の前には無力です」

次に、陸に大粒の紫水晶を差し出す。

「これは、幻影の宝珠。これで自分やみんなの姿を自由に変えることが出来る。正体がばれたくないときや、どこかに潜り込む時に役に立つわ」

更に、雅翠には二本の蛇が巻きついたデザインの杖を。

「これは言霊の杖。力を解放している間、私達全員がテレパシーで繋がることが出来る。自分が見ている状況を人に伝えるのに有効なの」

最後に、翔の前に立った美姫は、赤い石の付いた一振りの剣を渡した。

「これは、破邪の剣です。鏡であばいた弱点を突き刺すことによって、侵略者の力を打ち消すことが出来るの。操られた人たちはこれで助けられる」


全員に封神具を渡した美姫は、溜め息を吐いた。

「…使わない時は自由な形に変えて持っていられる…お互いの封神具を貸し借りしても大丈夫だけど、使用が終わったら元の持ち主に戻るから……」

ふらり、と倒れ掛かった姫の体を、藤原が支える。


「それは、アルテミーシア姫と彼女の兄弟たちの力を封じたものなんだよ…」

「そのご兄弟は?」

翔が聞くと、藤原は難しい顔で首を振った。

……つまり、そういうことなのだろう。


「渚ちゃん。君が持っている鏡は、アルテミーシア姫の分身だ。何かあったら話しかけてくれ」

「わかりました…美姫、美姫、大丈夫なの?!」

美姫はぐったりしながらも頷く。封神具に力をそそぐのに消耗してしまったのだろう。

四人は重い使命を感じながら、それぞれの手にあるものを見つめた。

(続く)



と、言う訳で、戦いなれしていない四人のためにお助けアイテムを出してみました。

マスターが外枠を作り、美姫が力を注いだイメージ。

そのうち壊れてしまっても、またレベルアップして別のものになってもいいので。

宜しくお願いします~。



以下詳細です。

【真実の鏡】

光明神、アルテミーシアの力を封じる。(彼女の使っている大きな鏡の分身みたいなもの)

この鏡に映るものは、相手の真実の姿。

…つまり、大蛇になってしまった小松さんが、ちゃんと人間の姿で見えます。

弱点も判ります。

渚ちゃんに渡しています。

(普段はペンダントか何か好きな形にして下さい)


【幻影の宝珠】

演劇神、ディオニュソスの力を封じる。

人前で戦うとき変身するか?という話があったので、これで自由に変身させちゃって下さい。戦隊系でも可(笑)

陸君に渡しています。


【言霊の杖】

伝令神、ヘルメスの力を封じる。

戦闘中、全員がテレパシーで繋がるイメージです。

スイは飛んでることが多いので、情報を共有できたらいいなぁ…と思って出しました。

(普段は金色のブレスレットにしています。)


【破邪の剣】

軍神、アレスの力を封じる。

弱点に突き立てると、人間に戻るというアイテムです。

翔君がリーダーっぽい?とのことで彼に渡しました。



暫くは、各自能力で敵を弱め、弱点を鏡で暴き、剣で人間に戻すというパターンがいいかな~と思っていますが、その辺はお任せします。

それから、アイテムを普段はどんな形で持っているか書いて頂けると嬉しいです。




藤原さんについて

神話に当てはめると、鍛冶の神へーパイストスのイメージになってきました。

でも、上の~神もへーパイストスも、私の勝手なイメージなので、別に拘らなくてOKです!


……時給は1000円以上がいいなぁ。(超願望)


今回は短いですが、早めに回しますね!それでは!!





4人は『Ad astra』を出て、通りを歩いていた。すでに時刻は夕方になりつつあり、学校や会社帰りの人々で通りは賑わっているのであった。

4人の中でも、陸と渚はまだ、いまさっき起こった出来事を消化しきれていない、という表情をしていた。

「これ、ドッキリじゃないよね」

陸が、すぐ隣を歩く雅翠に尋ねたが、雅翠は何も答えなかった。

「陸君が飲み込めないのは仕方がないと思う。私も、まだよくわかってない。だって、さっき美姫に言われた事、まるで映画でも見ているような感じで」

しばらくの間、誰も口を利かなかった。しかし無理もないことだろう。今までごく普通に生活をしていた、特に渚と陸は、いきなりこんなことを言われて、すぐに全てのことを理解しろという方が難しいかもしれない。

「あの、翔さんはどうなんですか?今、僕達がやらなければならない事って」

今度は陸が、翔に尋ねた。

「実は、あの子、あのお姫様が、俺の夢の中に何度も出てきたんだ」

「えっ!?」

渚と陸が、同時に声を上げた。

「君達と出会う、つまりあの店に通う様になる少し前からかな。あのお姫様が俺の夢の中で、俺の力を貸して欲しいって何度も言うんだ。最初はただの夢だと思っていた。だけど、何となく入ったあの店に、夢で出てきたあの子がいてさ。夢に出てくる女の子に良く似ていると思いながらも、あの店の雰囲気が気に入って、ずっと通う様になったんだ」

「おそらく、それも美姫の力だろうね。彼女は戦士を集める力を持っている。僕達が集まったのは偶然ではないんだよ」

落ち着きのある声で、雅翠が答えた。

「その頃から、炎を自在に操れる事に気付いたんだ。俺には何か特別な力があるかもしれないって思うようになった。そのすぐ後だよ、君達と出会うようになったのは」

「でも、僕、その土を操る力なんて。どうすればいいのかわからないよ。確かに粘土で色々作ったり、石を削って人や動物を作ったりするけど、そんな超能力みたいな事なんて」

自信がなさそうに陸が呟くと、渚があっと声を上げた。

「美姫の声がする!」

渚は、つい数十分前に美姫から受け取った鏡を取り出した。

「渚、聞こえる?気をつけて、小松さん・・いえ、侵略者達は近いわ」

渚は、胸を鋭い矢でつかれた様な感覚を覚えた。自分が恋した人がすぐそばにいるというだけで、胸が落ち着かなくなるというのに、その自分が恋した男性は、正体のわからない侵略者に利用されて、しかもいつ襲い掛かってくるかわからない状況にあるのだという。

「わかっているけど、でも、私、まだ心の準備が」

さらに心臓が激しく脈打ち、背中に汗が落ちるのを感じた。

「落ち着いて、渚ちゃん。これから僕達が出会うのは、君が知っている店長さんじゃない。いつでも、これだけは忘れないで。美姫は君を信じている。頼りにしている。彼女を守るのは君と、僕達だけなんだよ」

雅翠の声はとても落ち着いていた。雅翠は渚の肩に優しく手を置いた。その手のぬくもりが、緊張で今にも倒れてしまいそうな渚を優しく落ち着かせた。

「スイさん、あそこ見て!」

陸が声を上げて、4人のすぐ先にある空き地を指差した。おそらくは、もともと大きな店があったのだろうが、今は更地になっている。通りから外れた所にあるため、まわりに人影はなかった。

その空き地の中央に、長いものが横たわっている。巨大な丸太のような胴体、粘液のあるぬめぬめとした体。

「蛇みたいだ!」

陸がそう言い終ると同時に、その巨大な蛇はゆっくりと胴体を持ち上げ、そして頭を持ち上げた。

「あれが店長なの!?あんな怪物が!」

渚が悲痛な声を上げた。

「・・・渚、ランチ・・・ランチ・・・渚・・・食う・・・全てを食う・・・」

うつろな、声とも音とも聞き取れるような言葉を発し、その巨大な蛇は、まだ自分自身が何なのかわかっていなかったのかもしれない。4人を見下ろし、静かに佇んでいるだけであった。


(続)


戦いの直前で止めてみたり。このまま戦ってもいいですし、別展開にしてもいいと思います。変身する話がありましたが、まず第一回目の戦いになるので、ご都合主義で人気のいないところに蛇さんを登場させました。


翔君が他の3人と交流がそれほどないまま、いきなり巻き込まれた感じがあったので、実はこんなことがあったんだ、だから自分も戦うよ、的なエピソードを入れてしまいました(汗)不都合あったら訂正して貰って構わないので。


最後に、皆への呼び方がわかりにくいので、陸の分を乗せておきます。皆の分も追加してもらえると助かります。


●陸


一人称:僕

渚:渚ちゃん 雅翠:スイさん 翔:翔さん 美姫:美姫ちゃん 藤原:マスター その他の人:基本的に~さん、とさん付け

口調:~だよ、~だよね、~かな? 等、柔らかめ。ただし、目上の人(現在の時点では藤原)にはですます調で話しかけます。

今回のみ、翔に対してもですます調になってます(現時点では、まだ仲間意識がない、という点で)が、次回からは同じ仲間として普段の話し方で話しかけると思われます。




翔は初めての事に少々戸惑っていた。

先日の藤原の言葉にも、動揺を隠し切れなかった。

人探しを手伝う…探偵になったつもりでの申し出だった。それが…。

「何だか地球防衛軍みたいだな。」翔は思った。

子供の頃、戦隊ヒーローものに憧れ、友達の間でも随分とごっこ遊びをやったもんだ。

自分もいつか…なんて。

美姫から受け取った破邪の剣は今、アクセサリーとなって翔の首に下がっている。

そして目の前には蛇へと姿を変えられた店長・小松が現れた。

翔は逃げ出しそうになる気持ちを奮い立たせるように言った。

「これは自分に課せられた使命。俺は火を操る不知火翔!何度も夢の中で呼びかけていた理由が今分かったぜ!」

横を見ると、何を今更的な目で自分を見ている陸と目があった。

「これは、店長さんを救い出すことが目的じゃぁない。店長さんを、姫を、そして地球を!俺達の財産を守るんだ!」

キマッタ…やや優越感に浸りながら翔は宣言してみせた。

他の面々はリアクションに困り果てている様子だったが、そんなことにはもう構わない。

「さぁ、皆の衆!今こそ己の力を解き放つのだ!」




変身する話なんか、ありましたっけ??


翔は普段、アクセサリーにして首から提げる形にします。

それと、リーダーでもいいですが、かなり雰囲気に飲まれる人なので、↑な感じになりました。

小説の中の笑いのポイントにしてもいいですし。

どんな風に戦闘に入るのかはお任せします。


●翔

一人称:俺

リーダーと言うことであれば、女性陣以外はすべて呼び捨てになります。

しかし、翔自身もどういう風に呼ばれるかは気にしていません。

呼びたいように呼んで下さい。





その時だった。蛇は急に首を伸ばすと、渚に襲いかかってきた。

 シャアァァァァァー

「きゃあ!!」

翠雅は渚を抱きかかえると、ふわりと宙に舞った。翔は、肩すかしをくらったようで少しよろけた。

「スイさん、空飛べるの?!!」

陸は驚いた。

その後も蛇の攻撃は続いたが、翠雅も素早い身のこなしでかわし続けた。

翔と陸は何をすればいいかも分からず、動けずにいた。

その時、ペンダントとなって渚の胸にかかっていた真実の鏡が光り、美姫アルテミーシアの声が聴こえてきた。

 

 ―――― 陸くん、幻影の宝珠を ――――――


「う、うん!」

陸は少し震えながらも、幻影の宝珠を振りかざした。

すると宝珠は赤、翠、黄、青と四つの光を放ち、それらは四人をそれぞれ包み込んだ。


 ――――――――― !

渚の体が翠雅から離れた。


やわらかく優しい、ある時はさざ波のような、またある時は川のせせらぎのような水の音とほの青い光。

やがて光は細長い帯のようになり、渚の手足、体に絡みつく。

そのまま光は、サテンのように光沢をおびひらりとした布となり、まるで彼女の体を守るかのような服となった。


他の四人も、赤、翠、黄と、各々の力を象徴する色合いのコスチュームを身にまとっていた。

それは見たこともない、まるで異世界の服装だった。

「不思議だ。体が驚くように軽い」

翔が言った。

「なんだか、力がみなぎってくるような気がするよ」

陸が言った。渚は自分の服装を見て阿然としていた。

蛇は再び渚を襲ってきた。翠雅は渚を庇うと風をおこした。

 ビョォォォォォォォ

向かいくる突風に蛇は動きを封じられた。

「渚ちゃん、今だ、真実の鏡にこいつを映すんだ!」

翠雅の声に渚は我に返ってコンパクトを開き、恐る恐る真実の鏡に蛇の姿を映してみた。

「・・・・・・・!」

そこに映し出されたのは小松の姿。渚は一瞬動揺したが、先ほどの翠雅の言葉を思い出し、心を奮い立たせた。

(これは、あたしの知ってる店長じゃない…)

真実の鏡は相手の弱点を映し出すというアルテミーシアの言葉も思い出した。

(弱点…あなた、あなたの弱点はどこなの?…)

渚は気を集中させ、鏡を見つめた。


 ―――――― 渚・・・・・・・


鏡に映る小松がおもむろに口を開いた。


 ―――――― 渚・・・・俺は・・・俺は・・・・・


「えっ?!」

渚は動揺した。

「渚ちゃん…早く…陸も…手伝ってくれ…」

翠雅は額に玉のような汗を浮かべていた。

「う、うん!」

陸は地に力を送った。すると、地面が波のようにうねり出した。

「スイさん、後は僕が!」

風が凪いでゆく。陸は力を送り続けた。

地面の土は粘土の津波のようになって、蛇の体を飲み込んだ。蛇は頭以外、身動きできなくなった。

「渚ちゃん!こいつの弱点を教えてくれ!」

翔が破邪の剣を抜いて叫んだ。

「・・・・・・・・」

渚は鏡を見つめて固まっていた。

「渚ちゃん!」

翠雅や陸の声も耳に入っていないようだった。


 ――――― 俺は・・・君が・・・


「ええいっ!面倒だっ!!」

翔は剣を構えて蛇に立ち向かっていった。


 ―――――― 君が好きだ


「やめてえええええっ!!!」

渚が叫んだ。翔は思わず動きを止めた。

すると、蛇はもがき、苦しみ出した。

「店長!!」

渚は蛇の近くに駆け寄ったが、その姿は次第に薄れてゆき、消えた。

「店長…」

渚は泣き崩れた。

広い敷地に風が吹き抜けた。

翔、翠雅、陸は、ただ呆然とそこに立ち尽くしていた。



 その後、四人はアルテミーシアの元へ呼ばれた。

「ごめんなさい。あたしのせいで…」

渚がうつむいて言った。

「気にしないで。初めての戦いだったわけだし、ぶっちゃけ僕だってどうすればいいかよくわからなかったんだから」

翠雅が慰めた。

「でもヤツは一体どうしたんだろう?突然消えちまって…」

翔が言った。

「きっと、小松さんの心が顕在化してきたんだわ。だから、戦意を喪失したのだと思うの」

アルテミーシアの言葉に、渚はドキンとした。

「でもびっくりしたなあ。まさか、変身できちゃうなんて」

陸の言葉にアルテミーシアが答えるように言った。

「あれは護神衣といって、あなたたちを守ってくれるわ。そして、あなたたちの力を最大限に引き出してくれる。戦いのときにはあの姿になるといいわ」

(う~ん、スーパーヒーローらしからぬ格好だな…)

変身というと特撮ヒーローばりのバトルスーツを思い浮かべていた翔はいささか不満だった。

「それと翔くん」

「はっ、はい!」

アルテミーシアに心を読まれたかのようなタイミングで声をかけられ、翔はびくっとした。

「破邪の剣はやみくもに振りかざしてはならないわ。必ず弱点を突いて。

破邪の剣は侵略者の力を打ち消し、操られている人を解き放つものだけど、剣であるからには凶器でもあるの。

弱点以外の場所を切りつけてしまったら、元の人間の体をも傷つけてしまう可能性があるの」

「えっ!?」

翔は驚いた。

「つまり、あの蛇なら小松さんの体…」

アルテミーシアの言葉に渚は血の気が引いた。

「悪かった。今度からは絶対に、慎重に剣を抜くから…」

翔は四人に向かって頭を下げた。

「…あたしも…必ず弱点を暴くわ…」

ゆっくり顔を上げて渚が言った。二人の任務は重かった。

「彼はまだ解き放たれたわけではないから、必ずまた現れるわ」

アルテミーシアが険しい表情をして言った。

「とりあえず今日はみんなゆっくり休んで。あと、渚だけ残って。話があるの」



「店長は、大丈夫なのかな…。なんだか苦しんでたみたいだったけど…」

不安そうに渚が言った。

「彼の…小松さんの声が聴こえたのね」

アルテミーシアの言葉に渚はドキッとした。

「…あたしのこと、好きだって…。でも、店長には千穂さんがいるわけだし、きっと何かの間違いだと思うの…」

アルテミーシアは静かに首を横に振った。

「真実の鏡が映し出すものはすべて真実よ」

アルテミーシアはまっすぐ渚の瞳を見つめた。

「彼はあなたのことを愛してるわ」

アルテミーシアは、まるですべてを知っているかのようだった。渚は目をそらした。

「…でも、千穂さんと結婚するじゃない…」

「小松さんは、渚への想いを断ち切るために結婚を決めたのよ」

「…断ち切るって?…」

渚は頭を押さえた。

「…彼は千穂さんのことも愛してるわ」

アルテミーシアの言葉に、渚は肩を落とした。

「小松さんと千穂さんはもう長いこと付き合っていて、半同棲状態だった。お互い空気のような存在になっていたのね。

だから彼にとって、渚への気持ちはとても新鮮なものだった。

でも、小松さんと千穂さんは結ばれる運命なのよ。それは決して変えることのできないもの。だから彼は千穂さんを選んだ。

でも、やっぱり渚への想いもなかなか断ち切ることができない。彼は苦しんでいたわ。侵略者はそんな彼の心の隙をついてきた…」

渚はうつむいた。

「…あたしが、メールしたり、ランチに誘ったりしたから…」

「渚は悪くないわ。純粋に彼を愛していただけなんだから」

アルテミーシアは渚の肩に優しく手を置いた。

「でも、あたし、店長の気持ちを知ってどうすればいいか…」

渚は再び頭を押さえた。

「渚、とても辛いことだと思うけど、まずあなたが小松さんへの想いを断ち切るのよ。弱点を暴くには、心に迷いがあってはならないの」

アルテミーシアは真剣なまなざしで渚を見つめた。

「破邪の剣で弱点を突いたら、蛇は小松さんに戻るわけだけど…その時は、彼はあなたのことを忘れているわ。

そして再び出会っても、もう彼はあなたのことを好きにはならない。破邪の剣はすべてを断ち切るの」

渚は肩を震わせて泣き出した。アルテミーシアは優しく渚の体を抱いた。



帰り道は強い風が吹いていた。

小松への想いを断ち切る。これは侵略者との戦いでもある。

渚は風に髪をたなびかせながら、拳をぐっと握った。

妖しげな月の光が、背中を押すかのように背後から彼女を照らしていた。

彼女の表情は、少女から大人の女性に変わっていた。


さよなら、店長・・・


                             つづく


 

御神衣ってナンダ?!とひとりで突っ込んでしまった私であった。

私服で戦うのはチョット…と思ったので、プリキュアくらいの変身ということで…(^^ゞ ちょっと神秘的になって、髪が伸びたり、色が変わったりするのかな?…

あと渚ちゃん以外のキャラの変身、封神具を出す描写をあまりしませんでしたが、皆さまに委ねます。

敵はどうする?また、一人一キャラクター考えましょうか?


今回も遅れました…ゴメンナサイ…


一人称 → あたし 

各キャラの呼称 → 翔さん、スイくん、陸くん、美姫、マスター




クスクス クスクスクス…


暗闇の中から、子供の笑い声がした。

傷ついた体を横たえていたピュートン…小松は薄く目を開いた。

もう、自分が蛇なのか人間なのか、何が本当で夢なのかも、彼には判らなくなっていた。

ただ。

「店長…っ!」

泣き出しそうな少女の声が、胸に木霊する。彼女を哀しませてしまった、という痛みが確かにそこに存在した。


「失敗、しちゃったね」

暗闇から、白いブラウスを着た少年が姿を現した。フリルがたっぷり重ねられた服に、黒い吊りズボン。それは膝丈で、少年のか細い足を露にしていた。

「仕方ないよ。彼は僕らと違って覚醒して間がないんだから」

もう一人、少年が現れる。前の少年とまったく同じ姿。白い肌、薄茶色の瞳と髪、女の子のように繊細な顔立ちもそっくりだった。

ただ一つ違うのは、最初の少年は天使のような白い翼を、後の少年は悪魔のような黒い蝙蝠の羽を生やしていること。


「それは、あいつらだって一緒だろ。あんなやつらに負けちゃうなんてみっともないよ」

白い翼の少年が口を尖らせる。

「ヒュー。あいつらにはアルテミーシアが付いてるんだ。そこらの雑魚神と一緒にしちゃいけない」

黒い羽の少年が咎めるように言うと、ヒューと呼ばれた少年はますます不機嫌そうになった。

「あっそ。タナはこんなやつの肩を持つんだ。出来損ないの蛇になんか」

ヒューは忌々しそうに呟いたが、ふと何かを思いついたように目を輝かせた。

「じゃあ、僕がもっともっとピュートンを強くしてあげるよ」

「や、やめ、ヒュー!」


タナ、と呼ばれた少年が止めるより一足早く、ヒューは翼を羽ばたかせてピュートンの上に舞い上がる。キラキラした白い粉が、ピュートンの体に降りかかった。

「眠りの神の名に置いて。目覚めよ、古き神々の血よ…!」

「ぐわっ!」

小松は思わず声を上げた。体が変だ。痛い。痛くて堪らない。

やがて、メリメリという音と共に蛇の肌がひび割れ、中から血と盛り上がった肉が噴出してくる。それは際限なく続き、激しい激痛のせいで、小松という人格はおろか、ピュートンという怪物の心まで断ち割っていく。


「あーあ、やっぱり壊れちゃったじゃないか、ヒュー」

のた打ち回る肉塊に巻き込まれぬよう自分も空に浮かび上がって、タナが呆れた声を出した。

「こいつが弱いのがいけないんじゃないか。僕たちなんか、この何倍も、何十倍も苦しんだんだよ?タナ」

ヒューは、以前の何十倍にもなったピュートンに、強い声で命令した。

「お前の敵はアルテミーシア。この痛みから逃れたかったら、その首を僕らに捧げて。すぐに楽にしてあげる」

その声の、酷薄な響きにピュートンが気づいたかどうか。彼は、「アルテミーシア…敵……」と呟きながら消えていく。

ヒューはペロリと舌を出した。

「ガイア叔母様には内緒にしておいてよ、タナ」


すみません、一年ぐらい遅れました。←

完全敵パート。幹部の一つとして、ヒュプノスタナトスの双子を出しました。

彼らも人間から覚醒した神です。




翠雅

僕、渚ちゃん、翔さん、陸、美姫ちゃん、マスター